70号棟 ― 軍艦島の教育を担った「端島小中学校校舎」

70号棟 ― 軍艦島の教育を担った「端島小中学校校舎」

島の子どもたちの学び舎

70号棟は、軍艦島(端島)における唯一の教育施設である「端島小中学校」の校舎であり、島の子どもたちにとっての学びと交流の場であった。人口密集の極限ともいえるこの島で、子どもたちの教育環境を確保するため、鉄筋コンクリート造の堅牢な校舎が建設された。


建築概要

  • 正式名称:端島小中学校校舎
  • 棟番号:70号棟
  • 竣工年:1958年(昭和33年)
  • 構造:鉄筋コンクリート造5階建
  • 機能:普通教室・理科室・職員室・屋上プール・体育館(隣接棟)

この校舎は、教育と生活が一体となった軍艦島の象徴的な建築であり、教室のほか屋上にはプールを備えた珍しい設計となっていた。これは平地がほとんど存在しない端島の特異な地形に対応したものといえる。


学校としての役割

端島小中学校は、小学校と中学校が併設された施設で、最盛期には児童・生徒あわせて800人以上が在籍していた。教員も20名を超え、都市部に劣らぬ教育体制が敷かれていた。

授業は国語・算数・理科・社会といった通常科目に加えて、家庭科や工芸、体育も積極的に行われていた。また、音楽・演劇・運動会などの行事も盛んに行われ、狭い島内でも子どもたちは豊かな学校生活を送っていた。


特徴的な施設

  • 屋上プール:海に囲まれながらも潮流が激しく危険なため、学校屋上にプールを設けた。子どもたちの水泳指導はすべてここで行われた。
  • 体育館(別棟):70号棟の隣に位置する専用の体育館棟があり、室内運動や集会に使用された。
  • 百段階段:学校へと続く急勾配の石段。高台に建つ校舎へ、児童は毎日この階段を上って通学した。

廃墟としての現在

1974年の閉山後、学校は廃止され、70号棟も無人となった。現在では教室内部は荒廃が進んでおり、屋上のプールも草木に覆われている。だが、コンクリート製の躯体は大きく崩れておらず、軍艦島に現存する中でもっとも印象的な構造物のひとつである。

見学ルートからも一部が望め、かつての賑やかな声の記憶を残す静かな遺構として、訪れる者に強い印象を与える。


おわりに

70号棟は、単なる学校施設ではない。過酷な環境下でも、子どもたちに学びと希望を与えようとした大人たちの意思の象徴である。軍艦島の産業遺構が「働く場」を語るものであるなら、70号棟は「育てる場」としての側面を今に伝えている。

コンクリートの風化の中にも、人々の願いや記憶が確かに刻まれている。それが、軍艦島という特異な場所の中で、この棟が放つ特別な意味なのである。

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